おれたちはきれいな生き方などしていなかったと思う。泥臭くて、血生臭くて、乱暴で、残虐で、非情で…。けれども、最後くらいはきれいで美しく迎えたいと思っていた。幸せに死にたいと思っていた。それはとても曖昧で、きれいで美しく幸せな死に方などは具体的に思い浮かばない。それを望むことすら、おれたちには許されていないように思えた。希望。希望の光。先生たちは、おれたちをそのように呼ぶ。本当にそうだろうか?希望など見えなくなったのは、ずいぶん前だ。

けれども、迎えたい最後はきっと迎えられたと思う。隣には、いつも一緒にいた仲間がいる。彼の揺れる黒髪を眺めながら、おれは息も絶えだえで、やがてすぐ来るその時を、当たり前のように待っている。おれはずいぶん無慈悲に人を殺してきていて、何でもない場所で一瞬でその命を奪ってきた。それに比べて、死を覚悟して待つ時が穏やかに流れているなんて、そして隣に仲間がいるなんて、おれはそれだけで幸せなのかもしれない。恵まれているのかもしれない。

「兵助、おれたちは幸せなのかもしれない」
「どうして?」
「今がとても、穏やかだからさ」

いつしかおれは兵助の揺れる黒髪が大好きになった。そよそよと風が流れて髪が揺れ、邪魔そうにそれを払うたび、あいつがいつ「切る」と言わないだろうかと冷や冷やしたものだ。けれども切る、とは言わず今まで来た。愛おしい。好きなものが、ずっと側にあった。好きな友だちが、ずっと側にいた。最後まで、側にいた。あいつはどうしているだろうかと思わずに済んだ。あいつは生きているだろうか、あいつの黒髪はあるだろうか。昔を懐かしまずに済んだ。あの頃が良かったと思わずに済んだ。愛おしい、愛おしい、愛おしい。

「ああ、…兵助、髪、切らないでくれてありがとう」
「え?なに、それ」
「ずっと側にいてくれて、ありがとう」
「勘右衛門。最後まで側にいてくれてありがとう」

こうして2人で話しながら、広がる夜空へ運ばれようとしているのだから、
泥臭くて、血生臭くて、乱暴で、残虐で、非情だったとしても

「勘右衛門、おれはね、しあわ」

それでも、おれは満足だ。
誰が用意してくれたのか知らないけれど、これ以上の幸せは、もう、無いと思った。
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